カウンター
通勤ラッシュ
ち〜ん(笑)。
14分前。
彼は、その国でもひいては世界的に有名な古都で
寝起きしている。
市の名前が冠された駅から、東北部に延びる路線は
毎朝、乗換駅である市の中心駅に、スーツ姿の
サラリーマンや、大きなエナメルバッグを持った
学生たちをひっきりなしに運んでいた。
彼もまた、そんな路線の利用客のひとりだった。
彼は、夏休みの間、それを利用していたので
(なにより彼はまだ夏休みの中盤だった)
いつも通り午前7時前は座れないにせよ、
通路に立っていれば窮屈な思いもせずに、
目的地に運ばれると、確信していた。
その1分後。ホームに勢い良く滑り込んできた箱は、
減速。停止。その蓋を開き、
そのなかに押し込めている多くの人形を、
自慢げに彼に見せびらかせた。
彼は典型的なジャポネーゼであり、順番に逆らわず、静かに
箱に吸い込まれていった。
蓋が閉まる。人形たちの中には悲鳴を上げる欠陥品も
紛れていた。
(普通、多くの人形は黙ってうつむいている)
1つ目、2つ目…駅に着く度、彼は人形にもみくちゃにされ、
すでに嫌気が差していた。
そして3つ目の駅。目的の駅はこの次だ。
すると、箱に片付けられている人形とは、違う顔つきで、
違う言葉を話す人形8体が躊躇無く入ってきた。
それはいわゆる乗車率200パーセントであった。
そのとき彼はすでに足の置き場がなく片足で立っていた。
迫る異形の人型。
限界状態の右足。
押される。
右足が床を離れる。
彼の頭にある言葉が浮かんだ……
ち〜ん(笑)
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