仕事のお母さん
俺の担当業務の一つに・・・
いわゆるインサイドセールスというものがある
簡単に言うと、「商談の場を作る」仕事である
商談はしない
場を作るだけ
自動車販売に例えれば、客を店に呼び込む仕事・・・とでもいうべきか
客が店に入った後は、営業のやつにバトンタッチ
今の仕事でいえば、資料請求などの問い合わせが入った案件から、実際の商談へと結びつけることがゴールとなる
が
正直言って、俺は商談の場など作りたくない
何故なら
課長の能力を考えると、これ以上抱える案件を増やすのはまずい
今でさえ処理しきれず、いろんな客を怒らせたり迷惑を掛けたりしているのだ
課長がこれ以上やらかすようになるのは避けたい
俺だって、降りかかる火の粉くらいは払うのだ
しかし
もちろん、会社というものは成長し続けなければいけない
今日の午後五時ごろ
課長から俺は話があると呼び出されていた
嫌な予感がする
課長が席に座ると早速口を開く
「ここ最近、問い合わせがあった案件のうち、いくつ商談につながった?」
問い合わせは多分十数件、商談は1~2件だろうか
「これ、ちょっと打率悪すぎるんだよね?」
そこで、ちょっと調べてみたんだけど・・・と続く
「問い合わせへのメール、いっつもコピペじゃん?これ何でなの?」
それはもちろん
先述の通り、課長の能力から考えて俺としてはこれ以上、案件を増やしたくないからだ
かといって問い合わせを無視するわけにはいかないので、最低限の対応で済ませている
なんて言えるわけもなく
言葉に詰まってしまう
課長の追撃は続く
「Mくん、出会い系アプリで知り合った女の子と付き合ったりしてたんでしょ?」
・・・
全くもってよく覚えている
これは、俺が最終面接で話したことだ
彼女がどうこうみたいな話になり、その際に口走ってしまったのだが
今から思えば、あんなこと言わなければ良かった
事あるごとに、こうして出会い系を例えに出してきやがる
俺としては居心地が悪いったらありはしない
「じゃあさ?多分テンプレートとかがあって、普通はそれを送ったりするんやろうけど」
・・・妙に詳しいな
確かに、テンプレート的なメッセージを女に送ることはよくあることだが
実際に使ってみたことがあるのだろうか?
普通は、なかなかそこまで想像することはできない気がする
「ちょっと気になる女のコやったら、テンプレートそのままで送る?違うやろ?その子に合わせて、内容組み替えたりするやろ?」
課長がそう言った瞬間
「ーーーーーー!!!」
俺の中で激震が走る
正にその通りである
その通りすぎて、清々しいどころか、むしろ気持ち悪いくらいだ
核心を付かれ、目を見開く俺
課長は満足そうにうなづいている
「それと同じ!一件一件の問い合わせをもっと大事にして?相手に合わせてカスタマイズして?そういうの、よくやってたんやろ?」
・・・
非常に
これ以上なく
言わんとすることは分かりました
ここで話は終わりかと思いきや
課長はまだ話している
「でも、女の子に送るメッセージの内容について、親に添削してもらう?」
突拍子もない話になった
「いや!?・・・してもらわないです」
あまりに驚いた俺は、声が裏返ってしまった
何を言おうとしている??
「そうだよね!そんなの気持ち悪いもんね。ところで、私はあなたの仕事上での「お母さん」みたいなものなんだけど、それと同じなんだよね?」
?
課長はうまいこと言った!みたいな顔をしているが
よく分からない
「お母さんは君がどんなメールを送っているか、なんていちいちチェックしない!」
ええ
俺にコピペ止めて、メールにオリジナリティ持たせろみたいなん言うのに
言うだけ言って確認はしないってことか
それを「お母さん」とかいう概念を用いて正当化している
意味不明だが
要は俺のやることが気に入らないが、それがどう変わったのかまでをチェックするほどのやる気はない、ということか
という感じで、俺へのフィードバックは終わった
そうはいってもなあ
まずは当の本人の課長様のキャパシティが上がらない分には
究極的には変わらないんだよなあ・・・
そんなことを思いながらも
「大変分かりやすい例えでした!ありがとうございました!」
お礼を言った
こういうとき、マスクは便利である
俺の顔は今、きっと引き攣っているだろうからな
つうことで
つづく
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