パピーオブ伊丹ストリート
今日、俺は古巣へと向かっていた
そう
伊丹にある某営業所・・・
かつての俺の勤務先である
法定一念点検というメンテナンスに出すためだ
およそ3か月ぶりの伊丹
懐かしいような
そうでもないような
ビミョーな気持ちで営業所の中へ入った
すると
「お!久しぶり!」
出迎えてくれたのはクソ帝国のお姫様、とかつて俺が呼んでいた同期の女
この小さな営業所のアイドル的存在・・・というところから俺がつけた名前である
今はもう、こいつのことをそんな風に呼ぶ必要もないのだが・・・
便宜上、これからもクソ姫様と呼ばせてもらおう
心の中で断りを入れながら
「ああ、久しぶり」
俺もあいさつを返す
最近、上司のクソババアか風俗嬢のありすちゃんとくらいしか女と話していなかったせいか
普通の女と会話するのはなんだか、それこそかなり久しぶりに感じる
が、そんなことを考えていた俺の思考は
次のクソ姫様の発言で遮られることになる
「新しい仕事、まだ続けてんの?」
ニコニコしながら鋭いことを尋ねるクソ姫様
(!?)
俺の中で激震が走る
まさかこいつ・・・
俺が課長から事実上の退職勧奨を受けていたこととか・・・
知ってる?!
いや、見抜いている、というべきか
戸惑いながらも、平生を装う
「あ、ああ・・・まだ続けてるよ」
いや、あんまり動揺を誤魔化せなかった
そんな俺の様子を楽しんでいるのだろうか
「そっか、新しい仕事、クソやったからもう辞めた、みたいな感じをちょっと予想してたんやけどなー」
ニコニコ顔でそう言った
意外と俺に対する理解が深い
そんなことを思いながら、俺は店へと入った
「・・・いらっしゃいませ」
店の中では、知らない人に出迎えられる
新人のようだ
しかし・・・
その分厚い一重まぶたとくすんだ色の茶髪を見ながら思う
(不細工なうえに、愛想までないのか・・・)
手の施しようがない
新人に寸評を加え
俺は席に座った
「・・・・」
新人が何か言っている
が
マスクと透明のパーティションのせいか全然聞こえない
「はい?」
首をかしげる
だが
「店長が・・・」
やっぱりよく聞こえない
「えっと・・・店長が?なんです?」
耳をそいつにぐいっと押し付けるようにした
「店長がただいま外出中なので、戻るまで少しお待ちください」
あ、そういうことか
しっかし、こんなトーンで話していて、普段から仕事になっているのだろうか・・・
そうやってしばらく待つと店長こと
Fランデブがきた
「おう!昼飯に行こう!」
というわけで、定食屋に来た
俺が上司に振り回されていること、
仕事場での雑談がほぼないこと
今は毎日昼休みと昼飯が当たり前のように摂れることなど
最近のことを話した
かつてはあんなに嫌っていたのに、今ではなんだか親しみさえ感じる
Fランも今年は新人の離職率を下げるため、一年目の子にはノルマが課されないこと
この店に仮配属でやってきた新人が歴代最高に使えなさそうなことを話した
三年離職率を下げるために一年目だけノルマをなくすって・・・
小手先のテクニックもいいところだ
もっと労働環境を変える、とかねえのかよ
まあそれをさしおいても、確かにさっきの新人には期待できなさそうである
「あんなやつ、俺もどうすればいいのかわかんねえよ・・・」
Fランも新人に頭を抱えていた
そんな感じで俺の車はメンテナンスされ
整備の人の計らいでエンジンオイルはサービスで交換してくれた
(エンジンオイルというのは、エンジンの中に入っている潤滑油で定期的に交換する必要がある)
OBとして行く分にはいい店なんやな
そんな思いを抱きながら
俺の法定一念点検は終わったのである
これだけ飼いならされては、狼というより仔犬・・・
さしずめ、パピーオブ伊丹ストリートだな
とまあそんな感じで
つづく
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