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魂を穢す

嗚呼・・・
俺の前の会社で過ごしたあの四年間は一体・・・
何だったんだろうか
死にながら生きてきたあの日々・・・
魂を穢しながら過ごしてきた生活・・・
そこで培ったスキルらしきものは
新しい会社では全くと言っていいほど役に立たない
いや、役に立ってしまうほうが問題なのかも知れないが
それでも、あれだけ苦しい思いをして無駄な時間を過ごしてきたのかと思うと
絶望せずにはいられない
レベルの差こそあれ
きっと、大東亜戦争の終戦を知らされた兵士たちも同じような気持ちだったのだろう
あれだけ、戦ったのに
勝てなかった
無駄だった
戦友や家族、友人や故郷を失っているのだから、気持ちが分かるなんていうのもおこがましいが
方向性としては近いのではないだろうか
ある日
俺は通っている居合の道場で
師範に問うた
「先生・・・転職先では、私が今までに培ったものが何の役にも立ちません・・・。
あの四年間は全て無駄だったのでしょうか・・・。
とても・・・悲しいです・・・。」
こうやって
すぐに自分を無価値な存在だと考えてしまうのが、俺の悪いくせだ
いや、癖というより・・・
抑うつである
昔はこんなこと、なかったのに
会社を辞めてもなお、後遺症のように残っていた
ところで
師範は異色の経歴の持ち主である
空手を極め、範士という最上位の称号を手に入れた
その果てに見えたのは
人を殴る違和感だったという
空手を極めた人間の言葉とは思えないが
何かを極めると、一周回って普通の答えになるのかも知れない
実際、たまに空手の技を寸止めとかで食らうが
俺の視界からいつも一瞬で消え
気が付けば拳が目の前やミゾオチのあたりにある
今もバリバリの現役である
さて、話が少しそれたが
空手を極めた経験から、直接的に対戦をしない、誰も傷つけない居合に目覚め、稽古を積み
今は居合の師範にもなっている
居合と剣道や杖道を収める人はたまにいるが・・・
居合と空手の組み合わせはかなり珍しい
そんな先生なら、きっと
他の誰にもない境地が見えているはず
そう思い、聞いてみたのだ
すると
予想だにしない答えが返ってきた
「あのね、M君。人生に無駄なことなんか、ないんだよ」
(は・・・?)
俺は間の抜けた顔をした
今はマスクもしていないから表情なんか誤魔化せない
100パーセントの「は・・・?」の顔である
だが、俺のリアクションを無視して師範は続ける
「今はきっと、その意味が分からないだけさ。
少し時間が経てば、いずれ分かるようになる。
僕なんか、自分の人生振り返ってみても無駄な瞬間なんてひっとつも無かったよ?
ただ、それに気が付くのに時間がかかっただけなんだけどね」
解説を聞いたが、よく分からない
ただの合理化のように聞こえる
てきとーに理由をくっ付けてるだけ
俺が一番嫌いなやつだ
しかし・・・
師範がそういうのなら、今はその言葉を黙って受け入れるしかないのだろう
弟子がなすべきことは
師を信じ、
そして、いつの日か師を超えていくことだけなのだから・・・
つうことで
つづく
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