最速桜
桜が咲いてやがる
聞けば、観測史上最速だそうだ
桜と言えば春
否応なしに実感させられる
そんな最速の桜を俺は通称、縁切り神社と呼ばれる
安井金毘羅宮の境内で見ていた・・・
嗚呼
何という皮肉だろうか
俺が依存しまくっていた女に振られたその矢先に
桜が咲き誇るとは
春が終わった俺に
春を知らせ
春を始めさせる
お前の春は終わったけどな、と
言わんばかりに・・・
世界が俺を嗤っている
いつにも増して・・・
・・・
今日、俺はひげの脱毛のために河原町へ来ていた
最早、何のためにひげを脱毛しているのかも分からない
見せる相手もいないのに、見た目に気を使ってどうする・・・?
まあ、髭剃りの手間は省けるが
元々ひげは薄いし、大した手間ではない
故に俺にとって完全に意味を失ってはいたが
脱毛サロンのお姉さんの営業力が凄まじいので、感服して今も通っているというだけ
いわば惰性である
そしてその帰り
特にやることもなかったのと
近場にあったということもあり
俺は縁切り神社に来ていた
既にこの段階で情緒不安定である
朝は女との復縁を願い、敬虔なる無神論者のくせに家の近所の神社に参拝し
夕方には、女のことを忘れ、次のステップへと進むため縁切り神社に来ている
数時間おきに気持ちと思考がコロコロ変わってしまう
だが、流石にこれでは節操がなさすぎると思い
縁切り神社は参拝せず、境内を通るだけにした
地味に来るのは初めてである
写真から想像していたよりも、縁を切る穴の空いた岩は小さく
また、若い女が多かった
みな何かしらあったのだろうか・・・
そう考えると、赤の他人にさえ何だか親しみを感じてしまう
まあ、尤も今の俺くらいに朝と夕で行動が正反対を向いているやつなんて他にいないだろうが・・・
それに今日、ここに来たのは近くにあったから、というだけではない
女と別れてから今日で三週間余りが経過し、少し落ち着いた頃合いだと考え
バレンタインチョコを貰ったのにホワイトデーを返していない、という名目でラインをしてみたが、未読スルーをかまされ、当てが外れたというのもある
元々、期待値の低い賭けではあったが・・・
未読スルーというのは何とも残酷な話である
転職という大願も叶い
ストレスから解放された俺は心身ともに健康になるはずだったのだが
内定と引き換えるように女を失い
結局、俺の心身は強く傷んだままである
簡単に健康体へは戻らせない、ということか
かつて俺が愛した世界であったが
どうやら、世界は俺のことを愛していないらしい
一時、世界も俺を愛していると感じていることさえあったが
とんだ思い違いであったようだ
俺は再び世界を憎むだろう
世界を愛し、そして再び憎むようになった俺の目に映るものは一体何なのか
知りたいような、知りたくないような
複雑極まりない心境である
つづく
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