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悟りを開く
俺は告白した
この日、俺の退職を聞いてやって来た保険会社の担当営業、Tさん(32歳バツイチ女性)に
「悟りを開きました」
この日、俺の退職を聞いてやって来た保険会社の担当営業、Tさん(32歳バツイチ女性)に
「悟りを開きました」
と

…
どういうことか、これから順番に説明しよう
…
以前俺は文字通り忙殺されていた
会社に行く前の日の夜から、である
明日はこれとあれをやって、この間の件を調整して、それからあの件をこっそり誤魔化そう…
うまくいくかな…
いや、できないとやばい
そんなことで頭が一杯だった
プレッシャーと不安で頭と胸はズシリと重く
首の折れたカカシのように常に下を向いていた
会社に着いてからはもっと憂鬱だ
リコール、一般整備、車検、クレーム、その他問い合わせ…
5分に一回くらいのペースで電話が鳴り響く
イライラする
ただでさえ忙しいのに、何でどいつもこいつも下らない要件でいちいちかけてくるんだよ…
自分が何かをしているときに、電話や来客などでそれを中断させられると、恐ろしく癇に障る
しかもそれがバカ面ぶら下げた愚かな消費者ならなおさらだ
これは比喩でも何でも無く
昼飯を食べる暇がない
だから昼飯抜きで仕事をする
もちろん、昼休憩分の時間はボランティアだ
そんなボランティア活動に興じていると…
手が震えてくる
慈善活動の喜びからではない
低血糖だ
俺は体の蓄えが少ないせいか、飯を食べないとすぐにこうなる
今すぐなにか食べたい
非常に苦しい
そこで、ふらつく足を強引に立たせ
仕事を無理やり切り上げ
昼飯を買いに営業所を出ようとする
すると…
決まっていつもこうだ
どうせ今日も来るぞ来るぞ…
ほーらやっぱり…
「すいませーん!ちょっとー!」
バカ面ぶら下げた!
類人猿が!!
客とかいうらしいが!!
決まって俺の行く手を阻むのだ!!
(叩き斬るぞクソ野郎!?)
時代が時代なら!
俺が帯刀していたら!
言うまでもなく、斬り捨て御免である
という気持ちを抑える
だが、顔には出る
出てしまう
俺の顔の皮は、殺気とも言えるこの強い気持ちをごまかし切れるほど、分厚くはないのだ…
だから俺は
クソ嫌そうな顔をして、
客…とかいう空気の読めないマス掻き野郎の方を向く
「あ、いらっしゃいませ…」
そうして、今日も俺の一日はストレス以外の何ごとも生み出すことなく
徒に過ぎてゆくのであった…
だが
だが!!
しかし
そんな日々は終わりを迎えた
言わずもがな、転職である
朝、会社に着く
着いたその瞬間から俺は悩む
(今日も一体、何して過ごそうか…)
後任が決まるまでの間は引き継ぎもできない
俺がやり残した仕事もあるが、それもわずかだ
故に
社内ニートと化していた
頭が軽い
回転も早くなった
きっと血が今までより多く巡っているためだろう
孫悟空の如く、今までの俺はストレスやプレッシャーによって、頭に輪が嵌っているような状態だったのだ
その輪が俺の頭をいつも強く締め上げていた
が
それが取れた
嗚呼…
何だか突然、姿勢が良くなったような気がする
身長が伸びたような気がする
あらゆる不安が取り除かれた状態
クリアな思考
これは言わばそう…
悟りだ
そうとしか言いようがない
折角である
悟りの力で何かしよう
何をすべきか…
そうだ!
このことを他の人にも伝えよう
かつて釈尊が伝道の旅でそうしたように!!
…
「悟りを開きました」
だから、思い切って言ってみた
保険会社のTさん
いつかセックスしてみたい相手だ
俺にもっともっと興味を持って欲しい、という願いも込めての発言だったが…
笑われるかと思ったが
俺の顔付きを見て、文字通り何かを「悟った」のだろう
見ればわかります、と言われた
やはり悟りを開くと分かるらしい
その調子で俺の欲望も察して欲しいな…
悟りを開いたクリアな頭で煩悩を炸裂させる
これはこれで愉悦である
さて
この悟りで得たパワーで俺の願いは叶うのか…?
つづく
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