カウンター
めのまえが まっくらに なった!

「メリッ」
宇宙で一番嫌な音が
その瞬間
俺の耳に飛び込んだ
俺の頭の中は真っ白になる
そう
何故ならその音は
俺が運転する、展示車の後方から響いたもの
俺が運転する展示車と
上司が今、電話で商談している最中の車とすれた音だったからだ
頭の中は真っ白
そして目の前は真っ暗
俺はこの感覚を知っている
そう
忘れもしない、あの日
高3の卒業間近の春
俺の浪人が確定した瞬間に味わったもの
浪人時代、俺がセンター試験で乙ったときの感覚
それを俺は思い出していた
ああ
悪い夢でも見ているのではないか
現実感さえ薄れてくる
とはいえ
まずは報告である
俺は車を降り
フラフラと営業所の中へ入った
営業所の中では上司が電話で話していた
「ええそうなんです!目立った傷もなくて、非常に状態の良い車で・・・」
それは違う
嘘だ
だって
その商談中の車は
ついさっき
俺が擦ったのだから
しかしそんなことなど露知らず、話を続ける上司を見ていると、胸を潰されるような気持になる
だから俺は
違う上司に報告することにした
ワンクッション挟んでなんとかなるような話でもないが
俺はワンクッション挟みたかったのだ
「すみません・・・えっと・・・その・・・あの青い車を・・・す、すってしまいまして・・・ええと・・・」
だめだ
口がうまく開かない
「え?」
耳を疑っているのか
それとも単に聞こえなかっただけなのか
上司が聞き返す
「あれを・・・先ほど・・・擦って・・・しまいました」
さっきよりかはいくらかマシ
何とか俺は発言することができた
ああ
俺の人生終わったわ
上司への報告が終わり、そんな気持ちになる
死刑判決を待つ罪人のようだ
しかし
「ほんまか、じゃあ取り合えず見てみよか」
思いの外、上司は冷静だった
流石は入社四半世紀のベテラン社員といったところか
上司のその落ち着き払った声で、俺はいくらか冷静さを取り戻した
と、いうことで
つづく
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