カウンター
眠いです、先生(タイトル、サムネは本文と関係ありません)
ウトウトしていると、伝声管が俄かに騒がしくなった。何か見つけたらしい。大声でわめく声がする。突然、
「左砲戦、左六十度、駆逐艦」
射撃盤の電源スイッチを入れた。速力三十七ノット全速力である。六門の大砲は射撃用意完了のランプが一斉に点灯した。
「一二0、右内三0」
距離一万二千メートル、互いに近付いているという号令だ。直ちに号令通り射撃盤に操作した。
「撃ち方始め」
号令官の夏目兵曹が、発射用意のブザーを力強く押した。
ドッカーン、艦全体に鈍い振動が伝わり、一斉に発砲した。
「初弾用意、弾着」
弾着を知らせるベルが鳴る。
「高め五、右寄せ三、急げ」
砲術長からの指示の通り、手早く手輪を取って操作を終え、号令官に復唱する。
「高め五、右寄せ三、よし」
再び発射ベルが鳴り、発砲。
「高め苗頭修正弾用意、弾着」
弾着ベルが鳴る。十二秒斉射間隔で砲撃が続く。
「八五・三、右外二0、下げ三」
敵は反転したようだが、戦況はどうなっているのであろう。敵との距離はだんだんと離れていく。
まだ砲撃を止めない、一万三千メートルを越えた。
「撃ち方待て」
ほっとして手を休めた。戦果はどうであろう。
「撃ち方止め」
それから三十分ほど過ぎた。突然、
「対空戦闘、配置につけ」
「右砲戦、右二十度、撃ち方始め」
矢継ぎ早い号令が終わると、初弾が発砲された。
「急げ」
対空戦闘の斉射間隔は十秒と早い、しかも弾丸の先端に付いている着発信管を、時限信管に取り替えて装填するのだから、砲塔内では大変な作業だ。
時々爆弾が近くに落ちて爆発しているのか、ドドーッと、艦全体が振動する。その度にヒヤヒヤしたのは勿論のこと、外の様子が分からないだけに心細く心配だ、大丈夫だろうか。
「撃ち方待て、左に向きを変え」
「撃ち方始め、急げ」
別の敵機に向かって射撃を始めた。三斉射が終わると、またドドーッと至近爆発の振動だ。少し慣れてきた。
「撃ち方待て、敵機が燃えて落ちるぞ。右に向きを変え、撃ち方始め」
艦が左に急カーブした、ググーッと右に傾き体が滑った。その瞬間ダダーンと強い振動、同時に電灯がスーッと暗くなった、が、すぐに明るく戻った。
何処かやられたのでは、と思うと全身に恐怖が襲った。だが、艦は依然として三十七ノットの猛スピードで突進している。大砲も発砲した、異常は無かったのである。爆弾が艦すれすれに落ちて爆発したのであろう。
「撃ち方待て」
敵機が引き揚げていったのか、砲撃も振動もなくなり静かになった。速力計の指針が下がり二十一ノットになった。
「撃ち方止め」
「一番よし、二番よし、三番よし、各砲異常なし」
対空戦闘が一段落したところで、主計兵が朝食の乾麺包とミルクを配ってきた。
「おい、こんなものを食っていたんでは戦に勝てんぞ、もう二袋置いていけ。」
高橋さんに怒鳴られて、若い主計兵は素直に二人分の乾パンを余分に置いていった。
乾パンを口にしたが、先程の至近弾のことを思い出して気になって仕方がない。もしも爆弾が命中して艦が沈没したらどうなるだろう、私は狭い部屋のいちばん奥に居るのだ。海水が通 路に押し寄せてきたら、遅い者は水圧で扉は開かなくなるであろう。轟沈なら絶対に助かりっこないのだ。
駆逐艦は、一個の小さな爆弾でもまた小さい砲弾でも、命中すればわけなく轟沈するように出来ている。艦全体が薄い鉄板に覆われ、上甲板には砲塔が三基と、下には火薬庫があり艦の中央には戦艦を一発で沈没させる日本海軍自慢の酸素魚雷発射管二基と、予備魚雷が八本ある。さらに艦の後部には潜水艦用の爆雷が並べてある。これらの何処に砲弾か爆弾が当たっても吹っ飛んでしまう。薄い鉄板の箱の中に、大量 の爆薬を詰め込んで動いているのが駆逐艦であった。
攻撃力はあっても防御力はゼロである。駆逐艦の兵員たちはこの中で生活し、第一線で戦っているのだ。
水上戦闘艦はやはり現代艦より近代艦のほうが迫力があるのだ
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